米国の学校教育

米国に移住してまもなく7年、年が離れて子供が二人いるので、現地校関係のイベントを一通りこなすこともできた。
いろいろと日本と違う面も見えてきたので、ちょっと書いておく。

(参考まで、米国に赴任・移住してまもなくの学校選びに関してはこちらにまとめてある)

学校生活規範をより重視する

米国の学校では学校生活規範は日本より厳しい。
どの学校でも学校のバリュー -日本でいうところの校訓- が設定されていて、それに沿って行動することを推奨、というより命ぜられる。
これは「誠実」とか「自立」、「情熱」とか言った単語で5つから7つある。
先生もこれに沿って指導する。
集団生活を乱すような行為は、これによって指導され、守れなければ校長室送り、親は呼び出し、説教。
何度も繰り返せば「もう来るな」(退校処分)になる。
本の学校では「道徳」が教科としてあるが、こちらの子供のほうが実行できるモラルは高い。
困っている子には、誰かが飛んできて来て助けてくれる。
一方で「自由」の国でもあるので、日本のような規律は求めない。
「全校集会で全員整列」、「授業中に歩き回るのはダメ」、「私語は全くダメ」とかはないし、制服を導入しようとすれば反対運動が起こり、先生が算数の課題を解く最中にBest Hit Pop Music 100をかける。

より「自立」を求める

これは「概して」になるのだが、児童・生徒の行動に関してはより自立を求める。
例えば休み時間にやりたい遊び・遊具ができない場合にどうすべきか、先生が立ち入らず、自分たちで決める。
「順番を決めてやる」「一緒に遊ぶように"自分で"交渉する」「腹を立てるよりあきらめろ」
最後の解は平等な日本の教育ではあまりないものだと思うが、悪い奴はどこにでもいるので立ち向かずに退くことも手だと習うのだ。
こういった思考のプロセスを以って、児童・生徒たちに自立を促す。

PDCAサイクルを回す

これは小学校の話。
毎年学年の最初に学習、生活態度の目標を定める。
これを年間を通じてPDCAサイクルを回して自己評価する。
年に何回か3者面談があり、先生・児童・親の3者で計画のレビュー、途中評価のレビューなどなど。
まるで日本の会社の査定システム、どころかこっちのほうがちゃんとやってます。

親も教育される

曰く、
「自分の子供がちゃんと宿題提出してるか、学校来てるか、webでチェックしろ」
「でも子供に宿題やったかとか聞くな、中高生にもなったら自発的にやらせるように促せ」
「成績は授業態度、宿題の提出、試験で決まる、子供が宿題も出してないのに後で学校に乗り込んで文句を言いに来るな」
「子供の成績の中間評価を逐一チェックしろ、問題があれば早くホウレンソウ」
「分かっているはずのことでいちいち学校・先生に連絡をするな、こっちも忙しい、メールはちゃんと読め」
あいあいまむ!(学校の先生は女性が多いです)

優秀な子を「ひいき」する

ある分野に長けた児童・生徒は、Talented And Gifted (TAG)と言って特別プログラムが採用される。
これは同じ授業中により難しい課題が与えられたり、別のクラスでより高度な授業を受けたりする。
それにとどまらない。
こういった生徒は、何かをするときにはいつも一番最初にできる(席替えの時の席や課題の選択)、表彰されて学校を行進(全生徒が祝福する)、いろいろな目立つ役割を与えられる。
更に高校になれば、大学入学時に奨学金がもらえるなどなどなどなど。
えこひいき、そしてこれをだれも羨まず、褒め称える。
日本の教育現場のなんでも平等とは正反対で、競争と褒章です。

授業内容は練習より知識、知識より概念

筆者の専門が理系なのでそちらに寄った話になるが、数学や理科の授業内容を見ているとびっくりするほど難しいことをやっていたりする。
これは身近で興味が湧きそうな最近の話題、そしてそれは大概の場合かなり最先端の話題のため、科学の集積のようなものである。
これらは日本のように、「分かりましたね、ではこちらのワークブックの何ページをやってください」というようなものではなく、絵を書いたり、モデルをいじったりと概念を理解することに時間が割かれている。
こういった内容を限られた時間の中で取り扱うため、日本の網羅型知識詰込教育と比較すると、虫食い・穴だらけ。
数学に関して言えば、高校卒業時点で日本の数I+ぐらいしか通常過程ではやらない。
先ほど説明したTAGで数学ができる子でも、日本の理系の数学フルコース(数列、微積分、ベクトルと行列)ぐらいだ。
おそらく共通テストの数学をちゃんと解ける子はTAGで数学ができる子でも少ないだろう。
なので大学に入ると101(日本でいう一般教養のクラス)で死ぬほど苦しむらしい。

都市部の高校にいわゆる「ジョックス」「クインビー」はいない

これは別にスクールカーストがないと言っているわけではない。
都市部の学校はレベルも高く、高校卒業率が70%を超え(米国は高校まで義務教育でこの数字)、大学進学率も高い。
成績優秀、生活態度も優秀、運動などの課外活動でリーダーを引き受け、大学行きの奨学金をつかむことで、ようやく大学に行けるのだ。
よく映画に出てくるようなステレオタイプの、スポーツだけは得意で乱暴者かつ横柄なジョックスであったり、同様なクインビーではこの枠には入れないのだ。
誰かをいじめて校長呼び出しなど食らったら、あっというまに今までの積み重ねがパー。
そんなことになるより、ジョックスもクインビーも(耐えて忍んで)勉強もスポーツもできて皆の面倒も見てくれて誰からも好かれるようなスーパーマンになるべく、努めねばならぬのだよ。

授業参観はありません、学校に無許可で学校内に立ち入ってはいけません!

サイエンスフェアも含めた学習発表会のようなものが年に2-3回あるものの、子供の授業風景を見る機会は0。
自分の子供の学校での生活が見たかったら、学校運営のボランティアに参加しましょう。